五円さん

床に転がっていた画鋲を踏みつけた。
思わずのけ反って悲鳴を上げた。
血が出ているが、看護師の妻は「ツバを塗っておいたら良い」と言うだけ。

高校生の頃の事を思いだした。
田園ボーリング場の新築工事現場で掃除のアルバイトをしていた時、
釘を踏みつけてしまった。
たかが釘っと思っていた所、
柄の悪いお兄さんが「刺さった所から化膿して足を切断する人も多い、
釘をバカにしたらアカン、五円玉を当ててマッチで消毒しよう、だから五円さんって言うんや」と言って、マッチで焼き切って消毒をしてくれた。

優しそうな妻が、ツバで舐めとけって言う。
怖そうなお兄さんが、五円さんで一生懸命に消毒してくれる。

あのお兄さんも今頃は80才位、どうしておられるだろうか?。